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病院給食におけるニュークックチル導入のメリットと注意点

病院や介護施設では、調理スタッフの人数が足りず、仕事が多すぎるという声が多く聞かれます。2023年末から2024年初めにかけて行われた調査では、病院給食に関わる施設の6割以上が「人手不足が深刻だ」と感じていることが分かっています。

また、調理をする人の多くが1日8時間以上働いており、朝早くからの仕込みや、食事の時間に間に合わせるための慌ただしい作業が日常となっています。

参考:「日本医労連 病院給食実態調査」の概要(2023年10月~2024年1月)

現在の多くの施設では、クックサーブ(調理してすぐに提供する)方式を採用しているため、決まった時間に間に合わせる必要があり、作業が特定の時間帯に集中しやすく、残業や早出が常態化しているのが実情です。

こうした課題を背景に、人手不足の解消や業務効率化を目指す新しい調理方式として注目されているのが「ニュークックチル」です。

本記事では、病院給食の新たな調理方式として注目を集めるニュークックチルについて、その基本的な特徴や従来のクックチルとの違い、導入によるメリット・注意点、さらには導入を成功させるためのポイントまでを体系的に解説します。

病院給食における課題


病院給食における課題

病院では、毎日3食の食事を欠かさず提供する必要があり、スタッフの一人ひとりが欠かせない存在です。そのため、朝早くからの仕込みや長時間の勤務が続きやすく、調理スタッフの体への負担や、仕事の効率低下が心配されています。

今も多くの病院では、作った料理をすぐに提供する方法が使われており、短い時間でたくさんの調理をこなす必要があります。これにより、早出や残業が避けられないことが多くなっています。

また、栄養士や調理師は、料理を作るだけでなく、献立を考えたり、栄養バランスを管理したり、食材の注文や掃除など、さまざまな仕事も抱えていて、働く時間が長くなりがちです。

こうした状況を変えるためには、作業の進め方を見直したり、仕事をうまく分担できるしくみを作ることが、人手不足の解消や、働きやすい職場づくりにつながります。

ニュークックチルとクックチルの共通点及び相違点


病院給食において近頃注目されている調理方式として、「クックチル」と「ニュークックチル」があります。

共通点


クックチルとニュークックチルはいずれも、調理後に急速冷却を行い、一定期間冷蔵保存する「チルド食品」形式の調理方式です。

どちらも中心温度3℃以下まで急冷し、0℃~3℃の低温環境で最大5日程度保存可能なため、作業の計画性が高まり、大量調理現場での人手不足や業務負担の軽減に貢献します。

また、衛生管理の基準も厳しく、HACCPに基づく管理がしやすいという利点があり、安全性と効率性の両立が図られる点も共通しています。

【関連記事】HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point、ハサップ)

相違点


最大の違いは「再加熱と盛り付けのタイミング」です。従来のクックチルでは、冷却・保存後に再加熱してから盛り付けを行います。一方、ニュークックチルでは、冷却・保存後に盛り付けを先に行い、提供直前に再加熱カートなどで全体を加熱する点が特徴です。

この違いにより、ニュークックチルは食事提供直前の温度保持が安定しやすく、作業時間も分散されるため、現場の負担軽減とサービス品質向上の両立が可能になります。

病院へニュークックチルを導入するメリット


病院へニュークックチルを導入するメリット

①調理業務効率化とコスト削減


ニュークックチルを導入することで、厨房の省人化が進み、調理や提供にかかる人員や作業時間を大幅に減らすことが可能です。あらかじめ調理と盛り付けを終えた料理を、必要なときに再加熱するだけで提供できるため、早朝や深夜の出勤、残業を減らせます。これにより、人件費の削減につながります。

加えて、調理に使用する器具を最小限に抑えられるため、キッチン設備の規模や光熱費も従来の方法よりも抑えられ、食材の無駄を減らす効果も期待できます。

②給食の品質の向上と安定化


クックチルの導入により、病院給食の品質を高水準で安定させることが可能になります。特に「ニュークックチル方式」では、盛り付け作業を提供直前に行う必要がなく、再加熱後すぐに提供できるため、患者に温かい食事を届けることができます。これにより、提供の効率化と同時に、患者満足度の向上も期待できます。

また、専門の管理栄養士や調理師が開発するメニューでは、冷却や再加熱を前提とした調理法を工夫することで、風味や食感を損なわず、おいしさと栄養バランスを両立した食事の提供が可能です。

なお、調理は自社で保有するセントラルキッチンで一括して行うか、外部の調理業者に委託するのが一般的です。これにより、現場ごとの調理スキルの差による味や仕上がりのばらつきを抑え、常に一定の品質を保つことができます。

【関連記事】院外調理システムとは?システムの種類からメリット・デメリットまで徹底解説!

③衛生管理の強化と食中毒リスクの低減


クックチルおよびニュークックチル方式では、調理直後に料理をすばやく低温(3℃以下)まで冷却することで、細菌の繁殖を防止します。

これらの方式は、HACCP(ハサップ)の考え方に基づいた衛生管理が基本であり、製造拠点では食材の受け入れから出荷まで、温度管理や作業工程の管理が厳密に行われています。

製造工程においては、微生物汚染や異物混入を防ぐための体制が整備されており、製造初期から安全性の確保が図られています。特にニュークックチルでは、料理を盛り付けた状態のまま冷却・保存ができるため、現地での再盛り付け作業が不要となり、食材への直接接触が減ることで衛生面のリスクをさらに低減できます。

このように、低温管理と衛生管理の両立によって、安全で安定した病院給食の提供が実現可能となっています。

病院でニュークックチルを導入する際の注意点


病院でニュークックチルを導入する際の注意点

続いて、ニュークックチル導入における3つの注意点を解説いたします。

①個別対応の限界と栄養管理の複雑化


病院では、患者一人ひとりの状態に応じて治療食や食形態を頻繁に変更する必要があります。しかし、ニュークックチル方式は大量にあらかじめ調理・盛り付けを行うため、細やかな個別対応には限界があると言われています。

特に急性期の医療機関では、病状の変化が激しく食事内容の変更が多いため、ニュークックチルの適用が難しい場合もあります。

例えば、急な病状悪化や検査結果によって食事制限が急変した際には、事前に用意されたメニューが提供できなくなるリスクが存在します。こうした緊急時には、外部工場からの追加配送や非常食の活用で対処しますが、アレルギー対応や食事準備の調整が複雑になりやすいため注意が求められます。

したがって、ニュークックチルを導入する際は、病院内の個別対応体制を見直し、必要に応じて対応ルールを整備しておくことが大切です。

②保管スペースの確保


ニュークックチルを導入するには、冷蔵保存のための十分なスペースがとても大切です。料理は3℃以下で冷やして保管する必要があるため、今ある冷蔵庫や保管用のカートが十分かどうか、事前に確認しておきましょう。

また、ニュークックチルでは専用の再加熱用カートやオーブンも使うことが多く、これらの機器を置くスペースや導入費用も考える必要があります。従来の調理方法に比べると、どうしても場所を多く取ることがあるため、厨房のレイアウトや食事を運ぶ通路も見直しておくことがおすすめです。

最近では、必要に応じてレンタルの冷蔵庫を使うサービスもありますので、外部の設備を借りる方法も検討してみてください。

③急な病状変化・入院に伴う食事変更への対応


入院患者の容体が急に変わったり、病棟の移動があったりすると、食事内容をすぐに変えなければならないことがあります。特に急性期の病院では、急な入院や食事制限の追加が多いため、こうした変更にすぐ対応できる体制が必要です。

ニュークックチルを使っている病院では、急な変更に備えて自社セントラルキッチンや外部委託の場合は業者に別のメニューをすぐ届けてもらったり、長期間保存できる非常食を備蓄したりしています。ただし、これらは緊急の対応策であり、もともと用意していた食事が出せないと、患者さんやスタッフに負担がかかることもあります。

特にアレルギーのある患者さんへの対応や配膳のスケジュール調整には注意が必要で、普段から変更時の対応方法をスタッフ全員で共有しておくことが大切です。

クックチル導入を成功させるためのポイント


ニュークックチルの導入をスムーズに進め、効果を最大化するためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、その具体的な対策と注意点について解説します。

導入の目的明確化および関係者間の合意形成


まず最初に、「なぜニュークックチルを導入するのか」を明確にできると良いでしょう。経営陣から栄養士、調理スタッフ、看護師まで関わる部署全体で目的を共有することが大切です。

専門のアドバイザーが現場の状況を詳しく聞き取り、目標や心配事をまとめて提案するケースもあります。導入前にシフトの計画や説明会を行い、スタッフの不安を減らしておくことが現場の混乱を防ぎます。

病院の規模・特性に合ったシステム・機器の選定


病院の大きさや患者数に合った機械を選ぶことも大切です。大きな病院なら大容量の再加熱カートやベルト式のオーブンを使い、小規模病院では小型の再加熱機器やユニットごとの簡易装置を導入する場合があります。

実際に小さな病院でも専用のシステムを導入して、効率よく給食を提供している事例もあります。病院の食数や厨房の広さに合った設備を選ぶことが、運用の成功につながります。

HACCPに基づいた厳格な衛生管理体制の構築と維持


外部の工場で調理した食品を使う場合は、その工場がHACCPという衛生管理の基準をきちんと守っているかを確認しましょう。

HACCPは、食材の受け入れから出荷までのすべての工程で衛生面の危険を管理する仕組みです。

工場では温度管理や作業の手順を決めており、従業員の手洗いや異物混入防止も徹底しています。病院側でも配送や再加熱の際に衛生チェックを欠かさず、工場と同じくらいの衛生意識を持つことが重要です。

再加熱後も美味しく、栄養価を維持するメニュー開発


ニュークックチルは調理後に冷却し、再加熱して提供しますが、この過程で味や栄養が変わることがあります。そのため、導入前から献立やレシピを工夫しておく必要があります。

味や食感が損なわれにくい料理を選び、栄養バランスの良いメニューを組み立てます。蒸す、焼く、煮る、揚げるなど複数の調理法を組み合わせ、再加熱後も香りや食感が良い献立を作る工夫がされています。

委託先の会社によっては専用メニューを用意し、デジタルで加熱時間や温度を管理して、品質のばらつきを減らす取り組みも行われています。

病院給食の特殊性を理解したパートナー企業の選定


病院では治療食など特別な食事が必要です。こうした特殊なニーズを理解している業者を選ぶことが、導入の成功に欠かせません。

また、委託契約の際は、食事の種類や個別対応の可否、営業やサポート体制についてしっかり確認し、必要な情報を得ておきましょう。

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まとめ


ニュークックチルは、病院の人手不足やコスト増、品質の安定に役立つ方法として注目されています。導入すると調理の手間が減り、人件費を抑えられますが、一方で個別対応や設備の準備などの課題もあります。

経営者の方には、費用だけでなく患者サービスや安全面も考えて総合的に判断していただくことが大切です。

導入を成功させるには、目的を関係者で共有し、病院の規模や状況に合ったシステムを選び、実績あるパートナーと連携することが重要です。適切に運用すれば、現場の負担を減らし、患者に安全でおいしい食事を提供できます。

当社えだまめでは、最新の動向や法規制にも詳しい専門スタッフが、病院の状況に合わせた最適な導入をサポートします。ご相談や詳しい説明をご希望の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

執筆・監修

おいしい冷凍研究所 編集部

株式会社えだまめ