正しく評価できる環境を!食品の官能評価実施の注意点
適切な環境で評価を行なおう
官能評価は人の感覚に左右される評価方法であるため、より精度の高い結果を得るためには、調査を実施する環境の整備が欠かせません。たとえば、調査会場で臭いが発生したり、光が十分当たっていなかったり、先入観を与える情報が目に入るなど、影響のある要素が発生していると、評価に影響してしまうこともあります。
以下では、食品の官能調査を実施する場合に注意すべき項目の代表的なものを紹介します。これを踏まえたうえで、評価対象の食品の特性に合わせて、それぞれの調査で評価の妨げになるような要素が発生しないようにしましょう。
注意点の詳細はあくまで理想を述べたものですが、できる限り会場に反映し、中立な調査を行えるようにしてください。
注意点1:検査会場の環境
官能評価を行う環境は、一般的に「昼間照明で、無臭、恒温、恒湿、無騒音、雰囲気(家庭的など)が変えられる場所」が理想的です。
もし実現可能であれば、室温は21~22℃で相対湿度は60%前後に設定し、室外から清浄な空気を取り込む換気設備があるとよいでしょう。室内の材質や塗料が無臭な環境で、照明は太陽と人工照明の両方もしくは一方で条件の光量を取り込めるか確認しましょう。机の上を照らす光がすべて均等か否かにも注意が必要です。
また、食品の官能評価を行う場合、特に注意すべきは五感のうち「視覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」に影響を与える要素の有無です。会場を選定する際には、この4つに関する条件が適しているか確認するようにしましょう。
加えて、調査会場のほかにも、パネル(評価をする人)が休息して待機できる控室も準備する必要があります。疲れを感じたり、感情の起伏が起こったりする環境の場合は、評価結果に影響がある場合があります。パネルの気持ちを落ち着かせる設備と環境を確保しましょう。
注意点2:評価ブース
試料(評価対象物)を評価する場所は周囲の影響を受けないように、衝立や壁で仕切られた空間で評価をすることが望ましいとされています。衝立や壁を設置することが難しい場合は、パネルとパネルの距離の間隔を空け、周囲の様子が気にならないようにするとよいでしょう。
評価をしたうえで、パネル同士がディスカッションをするような場合は、向かい合って座れるような環境で調査をしてもよいでしょう。
注意点3:評価をするパネルの状態
試料を評価するパネルの状態にも注意が必要です。
食品の評価を行う場合は、香水や匂いの強い整髪料などの使用は控えてもらうようにし、口紅はふきとってもらいましょう。
嗜好型評価の場合は、普段に近い状態で問題ありませんので、これ以上の注意点は特にありませんが、試料の品質を評価する分析型評価の場合は、感覚を阻害する要素を除かなければなりません。
試料の性質にもよりますが、以下のような点を実践してもらい、感覚を鋭敏に保ってもらう必要があるでしょう。
・健康状態が悪い場合はパネルから外れてもらう
・テスト前30分とテスト中は禁煙する
・テスト前に香料を用いていない洗剤で手を洗う
・テストの前に口をゆすぐ
注意点4:試料の提示方法
加えて、試料については最も注意を払う必要があります。この試料の状態や提示方法がパネルに与える印象は大きく、ささいな点も評価に影響してしまいます。また、乾物か生ものかなど、試料によってそれぞれ特徴が違うため、評価対象の特性が失われないように個々の条件に沿って調整が必要です。
ここでは、試料の提示にあたって注意が必要な代表的なポイントを紹介しますので、これを踏まえたうえで、個々の試料に合わせて仕様を変えるようにしましょう。
容器と試料の盛り付け方
容器は試料を評価しやすいものがよく、一般的には白無地の磁器や透明のガラスコップが使用されます。
使用する際は無味無臭になるよう洗浄を十分に行い、保管中に異臭を付着しないように注意する必要があります。洗浄が難しい場合は、無味無臭の使い捨ての容器を用います。
試料は温度、形、大きさが一定になるようにして、盛り付ける器も同じ物を使用します。
調理後経過した時間も、すべて同じになるように注意します。生ものの場合は、乾燥により風味が変化することがあるので、乾燥防止対策が必要です。
試料に付ける記号
試料に番号を割り振ると、番号の意味合いから評価が変わってしまうことがあります。また、アルファベットを割り振ると、連想する単語により評価が変わることもあるため、使用する際には注意が必要です。
このため、試料に記号を割り振る際は3桁以上のランダムな数字・アルファベットを割り振るようにし、記号から意味が読み取られないようにしましょう。
試料の並べ方
複数の試料を一度に並べて評価をする場合は、並べ方が評価に影響する場合もあります。2点・3点識別試験法や2点嗜好比較法を使う場合は、それぞれのバリエーションをすべて使って並べ替えを行っておけば、位置による評価の影響を平均化することができます。
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試料の提示順
2つ以上の試料を食べ比べる場合は、食べる順番をあらかじめ決めておくようにしましょう。一般的に、人は食べ比べをすると、先に食べたほうか後に食べたほうのどちらかを過大評価するといわれています。
この評価のばらつきを防ぐために、試験者に食べる順番をランダムに指示をするか、食べる順を試験者に均等に割り振って評価してもらうなどの工夫が必要です。
試料の温度
官能評価を行う場合は、パネルに配布する試料はすべて同じ温度にすべきです。試料を何度に設定するかは、実験の目的に応じて決定しましょう。
温度を決定する目安として、たとえば、以下のような考え方があります。
・その食品が通常飲食される温度。一般的には食品の最もおいしいと考えられる温度
・品質の差がでやすい温度
・調査中に維持しやすい温度
・感覚が疲労しにくい温度
・試料が変質しない温度
一般的に舌の感覚は15~30℃で鋭敏に働くといわれています、低温では舌が麻痺し、高温では鈍感になる傾向にあります。味覚への影響も温度によって変わります。たとえば、甘味は一般に低温から高温になるにつれて増し、37℃で最高に達します。
それ以上の温度になると次第に減少していきます。温度は嗅覚にも影響が大きく、温度が上がると有香物質の揮発量が増し、刺激が豊富になり、強くなります。
試料の部位
肉や魚、野菜などを試料にする官能調査の場合は、試料を同じ個体の同じ部位から採取するようにしなければなりません。これらの食品は個体ごとに風味や栄養価が違ううえ、同じ個体でも部位が変わると風味や食感が変わってしまいます。試料が多く採取できない場合は、試料の数に合わせてパネルの人数を調整する必要があるでしょう。
試料や調査内容に合わせて最適な調査環境を作ろう
ここまで、官能評価を実施する際の環境づくりのための基本的な注意点について説明してきました。
しかし、これらはあくまで基礎的な点であり、より精度の高い調査を実施するためには、評価対象の試料の性質や、調査内容に合わせた変更が必要でしょう。
試験方法を決める際や、評価シートを作成する際など、官能評価の要素を検討する際には、調査を実施する環境づくりのことも念頭におき、反映していくようにしましょう。
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【参照】
『新版 官能検査ハンドブック』日科技連官能検査委員会編(日科技連出版社、1973)
『おいしさを測る 食品官能検査の実際』古川秀子(幸書房、1994)
『食の官能評価入門』大越ひろ・神宮英雄編著(光生館、2009)