「炒飯戦争」が業界にもたらしたもの
2015~2016年、「炒飯戦争」勃発!
冷凍食品業界の大きな話題として、炒飯の話題がここのところいろいろなメディアに取り上げられている。
火をつけたのは、2015年8月に発売された味の素冷凍食品の「ザ★チャーハン」である。その半年前には図らずもニチレイフーズが炒飯製造ラインに30億円の追加投資をして、250℃の熱風空間を再現し、より炒め感を増した「本格炒め炒飯」をリニューアル発売していた。同商品は長く冷凍米飯類の№1商品である。例えて言えば、トップチームのスター選手がパワーアップしたところに、3位チームから大型ルーキーが登場、ということになった。
じゃあ2位チームはというと、赤坂璃宮・譚彦彬料理長監修「あおり炒めの焼豚炒飯」を持つマルハニチロ。同社は2016年9月発売の新商品として同料理長監修の「炒飯の極み【えび五目XO醤】」を発売した。同商品発売にあたっては、300℃で炒める新あおり炒めの設備を追加した。さながら、根強いファンがいるベテラン選手が新打法でホームラン、という感じである。
プロモーションも華やかだ。ニチレイフーズはラグビーで人気爆発の五郎丸選手を起用して昨年からTVCM。味の素は、人気俳優の小栗旬を起用して大量のTVCMを投下した。マルハニチロも昨年は、俳優上川隆也起用のコミカルなTVCMを投入している。
各社の努力の結果、米飯類の市場は大きく伸びて、家庭用冷凍食品全体を再び活性化する原動力となった。人気カテゴリーを育成する研究開発、積極的な消費者への働きかけで需要を引っ張ったのである。
この「炒飯戦争」。ありがちな同一カテゴリーでの叩き合いではないところに意義がある。特に、「ザ★チャーハン」にスポットをあてて、業界にもたらしたインパクトを挙げてみたい。
久々の「上位定着」新商品
まず、売れ筋上位に来て定着した久々の新商品であるということ。
冷凍食品はあらゆるカテゴリーにまたがる商品であることから、いろいろなカテゴリーから何か1つのヒット商品が登場して注目を集め、市場全体の成長を牽引してきたという歴史がある。
振り返ってみよう。
時代を動かした家庭用冷凍食品、ヒット商品誕生の歴史
1967年
チビッココロッケ(日本水産)
1969年
かにクリーミーコロッケ(日本水産)
ミニハンバーグ(ニチレイ)
1972年
エビフライ、コロッケ(加ト吉~テーブルマーク)
ギョーザ、シューマイ(味の素)
1973年
肉だんご(ユニチカ三幸~ケイエス冷凍食品)
1977年
エビピラフ(味の素)
エビ寄せフライ(味の素)
1979年
おべんとう・白身魚フライ/とんかつ(ニチロ~マルハニチロ)
1983年
おべんとう・カツカレー(ニチロ~マルハニチロ)
1984年
オーブントースター調理ポテト(オレ・アイダ~ハインツ)
1985年
チキンナゲット(ニチレイ)
1986年
さぬきうどん(加ト吉~テーブルマーク)
※1988年 瀬戸大橋開通:さぬきうどんブーム
中高生のお弁当、お弁当にGood!(ニチレイ)
1987年
ちゃんぽん(日本水産)
たこ焼き(日本水産)
1988年
からあげチキン(ニチレイ)
1990年
焼きおにぎり(日本水産)
アンパンマンポテト(味の素)
1991年
肉巻きポテト(ニチロ~マルハニチロ)
冷凍だからおいしい麺類(日清食品~日清食品冷凍)
1993年
鶏つくね串(ユニチカ三幸~ケイエス冷凍食品)
1994年
新・レンジ生活 衣がサクサク牛肉コロッケ(ニチレイ)
1995年
お弁当用スパゲティ・ナポリタン(日清製粉~日清フーズ)
手焼きたこやき(加ト吉~テーブルマーク)
レンジでできたて・ミニ春巻(旭フーズ~JTフーズ~テーブルマーク)
1997年
やわらか若鶏から揚げ(味の素)
ギョーザ「油なし」に改定(味の素)⇒2012年 「油なし・水なし」に
1998年
カップ入り・えびとチーズのグラタン(雪印乳業~アクリ~マルハニチロ)
⇒2001年 カップの底に「くまちゃん占い」
新・レンジ生活 えびクリームグラタン(ニチレイ)
横浜あんかけラーメン(ニチロ~マルハニチロ)
1999年
こんがり焼おにぎり(ニチレイ)
自然解凍 和惣菜(日本水産)
ソテースパゲティ・ナポリタン(日清フーズ)
2000年
そばめし(ニチロ)
甘えびシューマイ(ニチレイ)
2001年
本格炒め炒飯(ニチレイ)
レンジ2枚ピザ(明治乳業~明治)
大阪王将餃子(イートアンド)⇒2014年「大阪王将 羽根付き餃子」に改定
2002年
レンジエビグラタン3個入(明治乳業~明治)
青の洞窟スパゲティ(日清フーズ)
2003年
オーマイプレミアムシリーズ(日本製粉)
2005年
譚料理長監修「あおり炒めの焼豚炒飯」(ニチロ~マルハニチロ)
2007年
BIGナポリタン(日本製粉)
※赤字は特にヒットしたもの
以上、過去10年ほどを振り返ってみると、売れ筋ランキング上位の常連になるようなアイテムに育ったのは、2014年のリニューアルされたイートアンド「大阪王将 羽根つき餃子」のみであった。上位定番として久々、彗星の如く登場したのが「ザ★チャーハン」である。
独身男性を中心に「男めし」需要の開拓
第二は新ジャンル「男めし」の創造。
味の素冷凍食品では、2016年12月、「ザ★」シリーズ化第二弾、「ザ★シューマイ」を新発売した。同シリーズのテーマが「男めし」だ。「ザ★チャーハン」は、周知の通りアミノ酸研究のトップ企業である味の素の研究開発力がもたらしたヒット商品である。深い美味しさを感じさせる「コク」の成分、「グルタミルバリルグリシン」を活用した日本国内初の加工食品が「ザ★チャーハン」なのである。さらに、口に入れた時の香ばしさからコクのうまさ、後味まで計算を尽くした開発商品である。この味わいが若い男性を中心に受けたのである。
冷凍食品売場に足を運ぶ顧客層はほとんどが女性。しかし、「ザ★チャーハン」の購入層の分析では、新規顧客の中に男性が顕在化したのである。つまり、誰かに食べさせる買い物ではなく、男性が自分で食べるための商品を買い求めたということ。これに「気付き」があったと同社は言う。
「ザ★シューマイ」は大ぶりの肉シューマイ9個が一気にパッケージごとレンジ調理できる。シューマイで大盛の白いごはんを食べてくれ、という「男めし」である。もちろん、コク味「グルタミルバリルグリシン」を使用して、さらに男好みの肉粒感も意識した。
競争から市場活性化
第三は紛れもなく、市場全体の活性化である。生産設備、研究開発への投資意欲を大手競合が刺激し合い、良い商品、美味しい商品、需要創造のできる革新的商品をつくり出したことである。
この機に乗って米飯をと目論む追随メーカーもいるが、なかなかそう安安とはいかない。そこにイノベーションがあるかないか、消費市場は厳しく敏感なのである。
執筆日:2016年12月27日